医療法人・社会福祉法人 さわらび会 第4回 研究発表会

医療法人・社会福祉法人 さわらび会 第4回 研究発表会

「医療法人・社会福祉法人 さわらび会 第4回 研究発表会」において最優秀賞となった2つの発表について紹介致します。

認知症により吸綴行為を行う患者様に対する取り組みについて

福祉村病院 2病棟5階

看護師 宮脇 千鶴子

看護師 廣田 瞳

<はじめに>

吸綴反射は基本的に新生児に見られる中枢神経の発達時の反射で生きるために必要な反射といわれている。認知症のかたが行う吸綴反射は水分や栄養を自らするが為の本能的な機能から起こってくる行為と推察する文献もある。決して空腹であるから行うのではなく指をしゃぶることで安らぎを得られ不安を軽減する証でもあると考えられる。今回取り上げる患者様は平成27年から吸綴行為を時間があればしている状態で手指がふやけ指の浸軟、感染の恐れがあった。そのような患者様に対し行った看護について報告する。

<患者様紹介>

I様 男性 78歳 病名 脳血管性認知症、糖尿病

<問題点>

吸綴行為により指の浸軟・皮膚トラブル、感染の恐れがある。ケア者がなぜ吸綴行為があるのか把握できていない。吸綴行為を無理に辞めてもらうことでストレスを強める可能性がある。

<目標>

吸綴行為の時間が減少(消失)し皮膚トラブルを起こさない。吸綴行為の根本にある原因を把握する。関わりを増やしストレスを軽減する。

計画・実施・・・期間:2カ月 介入内容 アセスメントの再試行、関係職種での多角的な意見交換、リハビリの開始(理学療法・作業療法・臨床心理)、水分量の増加(流涎による口渇や脱水)スタッフの関わり時間や寄り添った声掛けの頻度を増やす、清潔ケア(食事前後の手拭き、口腔ケア)、指の浸軟状態の変化の観察・写真撮影

<結果>

看護師 関わりを増やすことで吸綴行為の時間が減り衣類が濡れることも減ってきている。声掛けを多くしたことでI様から声をかけてくれるようになった。手指の浸軟は軽減し、感染は起こしていない。

理学療法 歩行訓練には前向き。立つ能力はあるが指示が入らず進みにくい。 

作業療法 だんだんと関係が築かれている感じがある。OT室では将棋に興味を示す。

臨床心理士 散歩中、会話なくとも吸綴なし。穏やかで実は会話好き。

<まとめ>

今回I様の吸綴行為について平田認知症看護認定看護師に相談したところ、吸綴行為を問題行動と捉えず行動心理症状と捉え根本原因を考え根本を軽減することが重要とのアドバイスを受け取り組みを行った。身体状態をアセスメントすることで身体の異常はみられず生活内容の見直しを行って全体像を捉えることに繋がった。アセスメントする中で会話をする相手がいない、車椅子で座っているだけの時間が心理的ストレスとなり、吸綴行為が増えていることがわかった。リハビリに介入していただき歩行訓練、散歩、元々興味のある将棋の話題づくりで心理的ストレスを軽減させ、他者との関係性を求める欲求を満たす働きかけとなった。吸綴行為の消失には至らなかったが、断続的な吸綴となり指の浸軟の悪化を防ぐことが出来た。今後もリハビリ等継続していき野球や散歩など取り入れ、吸綴行為を辞めさせることに囚われず、日々の生活が充実していただけるよう援助していきたい。

 

 

経口摂取維持への取り組み

カサブランカ
管理栄養士 和合倫位

はじめに
食事を経口で摂ることは多くの入所者の方の一番の楽しみとなっている。しかし、咀嚼・嚥下能力の低下や口腔衛生が保てないことによる歯の欠損、誤嚥性肺炎など様々な要因によって経口による食事摂取が難しくなっている。そこで、経口摂取維持の為に多職種が連携した取り組みを行った。

現状
・食事形態:普通食が約60%でこれまでも維持できている
・自歯割合:70%以上の方が自歯で食事摂取できている
・誤嚥性肺炎での受診者:平成24年度5.2人
・インフルエンザでの受診者:平成24年度3.5人

目標
以上の現状から次のように目標を設定した。
①普通食を平成26年度の60%を維持
②自歯を平成26年度の70%を維持
③肺炎等による病院受診数を平成24年度の半分以下に維持

取り組み
①歯科医師・歯科衛生士との連携
月1回の歯科医師往診、週1回の歯科衛生士による専門的口腔ケアを実施。また、往診時に歯科医師、歯科衛生士、看護師、ケアマネ、介護士、管理栄養士でミールカンファレンスを実施している。
これにより、口腔ケアや嚥下マッサージ、リハビリの技術指導や咀嚼・嚥下状態の確認、食事形態の検討、義歯の作成、水飲みテストなどの実施が可能となった。
②咀嚼・嚥下能力に合った食事形態の検討
普通食には口腔衛生に貢献し、咀嚼・嚥下能力の維持・増進、廃用性萎縮の防止に効果があるという報告がある。そこで、普通食提供継続の検討、咀嚼・嚥下能力に合った食事形態の検討、自立摂取継続の検討を行った。

症例
①Y様 81歳 男性 要介護度4 ペースト食
本人様より形があるものが食べたいとの要望あり。歯科医師に相談し、食事形態UPの可能性があるとの事で、義歯の調整や水飲みテストを実施。嚥下内視鏡検査の実施も予定している。
歯科医師らと連携することで食事形態UPの目途をつけることができた。

②S様 83歳 男性 要介護度5
普通食、肉・魚は一口大、汁の青み抜き、麺類はうどんのみ刻み食
ムセや痰がらみがあるも本人のこだわりが強く、食事形態の変更が難しい。そこで、本人の要望を聞きつつも能力にあった食事形態を検討し、提供している。食事は見守りと声掛けの対応となっているが、様子をみて介護士が副食を刻むなど柔軟に対応するように努めている。
このように、本人の要望をできるだけ取り入れる事で自立した食事摂取を維持できていると考える。

結果
①27年度でも約60%の方が普通食で摂取できている。

②70%以上の方が自歯での食事摂取ができている。

③肺炎、インフルエンザともに病院受診数を低減できた。

まとめ
歯科医師らと連携することによって入所者の方の能力の見極めがしやすく、必要以上の食事形態の変更をなくすことができた。また、口腔衛生保持の為の技術指導が受けられるため、職員のスキルアップにもなり、肺炎・インフルエンザの病院受診数の低減に繋がったと考えられる。
咀嚼・嚥下能力に合った食事形態の検討では、要望を細かく聞き、能力に合った食事形態で提供することで、食事を自立して楽しんでいただくことができた。
今後も経口摂取維持の為、各部署の連携を綿密にし、意識を高めていきたいと考える。また、歯科医師らとの連携は感染症の予防や自歯での食事摂取に重要であるといえる為、積極的に歯科医師・歯科衛生士による専門的な口腔ケアを勧めていきたいと考える。
そして、毎日の食事を楽しんでいただけることを目指していきたい。

今後の課題
口腔ケアが健康の面でも効果があることの認識がまだ少ないように思われる。職員だけでなく、家族にも口腔ケアのメリットを周知させていくことが今後の課題といえる。
自立し、楽しく食事ができることは入所者の方の「幸せ」に繋がると考える。今後も入所者の方の幸せの為に何ができるのかを職員一丸となって、あらゆる方面から考えていきたい。