12月8日 さわらび大学レポート
12月8日 さわらび大学レポート
日時 :平成27年12月8日(火)14:30~
場所 :野依校区市民館
○講義1「2025年高齢者問題について」
講師:福祉村指定居宅介護支援事業所・管理者
専門学校名古屋医専・非常勤講師 高島弥佳氏
■高島弥佳氏プロフィール
介護福祉士養成校卒業後、社会福祉法人さわらび会特別養護老人ホームさわらび荘に介護士として入職。さわらび会の各施設で就労しながら、介護支援専門員、社会福祉士、精神保健福祉士など様々な資格を取得。現在は福祉村居宅介護支援事業所で管理者及びケアマネージャーとして勤務。また、昨年からは専門学校名古屋医専で非常勤講師に就任し、認知症ケア科・社会福祉学科を担当。
1.日本の世帯構成の変化
2025年高齢者問題を考える前に、日本の世帯構成の変化をみていきましょう。
1950年 (昭和33年)頃 |
1975年 (昭和50年)頃 |
1995年 (平成7年)頃 |
|
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代表的な家族構成 | 三世帯家族 (サザエさん) |
三世帯家族 (ちびまる子ちゃん) |
二世帯家族 (クレヨンしんちゃん) |
父(54歳) 母(48歳) 姉(27歳) 弟(11歳) 妹(7歳) 姉の夫(32歳) 息子(3歳) |
祖父(75歳) 祖母(69歳) 父(39歳) 母(39歳) 姉(11歳) 妹(8歳) |
父(36歳) 母(30歳) 本人(6歳) 妹(0歳) |
|
高齢化率 | 4.9% | 7.9% | 14.6% |
平均年齢 | 26.6歳 | 32.5歳 | 39.6歳 |
平均世帯数 | 4.97人 | 3.28人 | 2.91人 |
世帯構成の変化は、それぞれの時代のホームアニメの世帯構成に反映されています。例えば1950年頃は三世帯家族が一般的でしたが、1995年頃には二世帯が一般的な世帯構成である事が分ります。
次に「高齢化率」の変化ですが、1975年頃の7.9%から1995年頃には14.6%と、わずか20年で急激に高齢者が増加していることが分かります。世界的にみてもこの増加は日本だけのようです。
また、「平均年齢」も年々上昇しており、2015年現在は46.5歳、2060年には56歳になると言われています。
「平均世帯人数」は時代と共に減少しており、主な原因として高齢者の一人暮らしの増加、三世帯家族の減少等が挙げられます。
2.高齢化の現状
それでは「高齢化の現状」を知るために、2015年から2025年への変化をみていきましょう。
2015年 | 2025年 | |
---|---|---|
総人口 | 1億2,659万人 | 1億659万人 |
平均寿命 | 男性79.94歳 女性86.41歳 |
男性81歳 女性88歳 |
高齢化率 | 25.1% | 30.3% |
65~74歳人口 | 1,749万人 (対総人口13.8%) |
1,478万人 (対総人口12.3%) |
75歳以上人口 | 1,645万人 (対総人口13%) |
2,178万人 (対総人口18.1%) |
15~64歳人口 (生産年齢人口) |
7,681万人 | 7,084万人 |
高齢者1人に対する生産年齢人口 | 2.3人 | 1.9人 |
社会保障給付費 | 約108兆円 | 約149兆円 |
日本の総人口は、2015年現在をピークに徐々に減少していきます。平均寿命は2025年以降も延び続けると予想されます。高齢化率も更に上昇し、2025年には3人に1人が高齢者の社会となります。団塊の世代(800万人)が当てはまる65~74歳の人口割合は2025年には減少しますが、団塊の世代が75歳以上になることで、65~74歳の人口割合を75歳以上が大きく上回ることになります。
逆に生産年齢人口は少子化に伴い現在より減少していきます。生産年齢人口とは言え、実際には15~22歳は学生が多く、1人あたりの負担は数字よりも大きいと言えます。
1990年の社会保障給付費は47.2兆円と現在に比べ小額でしたが、2025年には149兆円と、約100兆円の増額となっています。内60%を年金・保険料で賄っているのですが、残り40%は国が負担しており、その額は毎年およそ1兆円ずつ増加しています。
社会保障給付費の増額から分かるように、2025年には国民の医療・介護の需要が更に増加すると予想されます。その状況に対応するため、現在国が推し進めている「地域包括ケアシステム」についてご紹介します。
厚生労働省が2025年を目途に計画している、地域包括ケアシステムについてご紹介いたします。地域包括ケアシステムとは、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供出来るようにするシステムのことを言い、おおむね30分以内に必要なサービスが提供される日常生活圏内(具体的には中学校区)を単位として想定されています。
つまり、住まいを中心に生活しながら、病気になったら医療、介護が必要になったら介護、相談業務やサービスのコーディネート、生活支援・介護予防、これらのサービスを中学校区内で受けることが出来るようになるよう国が計画しているということです。
今回の講義では、「医療」や「介護」の提供については国が考えるべき事柄と捉え、「生活支援・介護予防」について、地域の皆様がいかに介護を支えていくか、老人クラブや自治会等でどのようなことができるのかについて学びました。
4.優しい街づくりの提案
「生活支援・介護予防」について学ぶにあたり、名古屋医専(認知症ケア科・社会福祉学科)の学生の皆さんが授業の中で考えた「高齢者にとって住みよい街」をみていきましょう。
最初に、認知症ケア科の学生さん達が考えた、「高齢者にとって住みよい街」を紹介していきます。
認知症になってしまい、周囲に迷惑をかけてしまうようになったハナさん(仮名)、今住んでいる街に住みにくさを感じるようになりました。ハナさんや家族、近所の方が楽しく、安心して暮らせる街を考えてみましょう」というテーマで作成したものです。
街の名前 | ほっと県やっぱ市楽し区しま町 ~すまなきゃ村村 一緒に歳をとりま町~ |
自宅 | この街の一軒家に引越し、ご夫婦で仲良く暮らしています。 |
病院(ほっと県立病院) | 看護師が往診、認知症のケアを行います。 |
スーパー (ババリューよってき店) |
支払い行為ができない方はツケにする、地域との連携、宅配などのサービスがある店舗です。 |
働く場所・居場所 (ばばの部屋) |
近所の子ども達と畑作りをして料理を振舞ったり、昔の遊びを教えてあげる場所。そして、戦争を知らない子ども達に戦争の恐ろしさを伝えていくという大切な役目があります。この施設は、認知症の方を見守るだけでは無く、認知症の方に子ども達の面倒をみていてもらう事の出来るシステムとして考えられています。 |
小売店(楽食) | お菓子、食品などが購入できるスーパーよりも親しみやすい小さな店舗です。 |
公園 | 歩行訓練ができる緑の多い公園です。高齢者の方に子ども達を見守って頂きます。 |
交番 | 道に迷った人を案内してあげる優しい警察官のいる交番です。 |
コミュニティーバス | 色々な人たちの移動手段になります。 |
学校(すくすくすくーる) | この学校では「シルバー大学」を開校し、この街に住む人全員を対象に認知症・介護などについての教育を受けられる場所となっています。 |
この街は認知症に対する理解が深く、支払いをツケに出来るスーパー、認知症・介護について学べる学校があるなど色々なサービスが充実しています。働くことや子どもと触れ合える「ばばの家」などもあり、ハナさんにとって楽しく暮らせる街となっています。街やお店の名前も若い方が考えただけあって面白いですね。
そして、これらのアイデアを社会福祉学科の授業に持ち込み、どのような事をすれば自分の地元でこのような街づくりが出来るのか考えてもらいました。まずは、「ばばの家」を経営するにはどうしたらいいか考えたところ、架空のNPO法人を立ち上げることになりました。そのNPO法人の目的・活動などをご紹介します。
法人名 | NPO法人 わくわくサロン 皆・逢・生(かいおうせい) |
利用する方 | 高齢者、子どもを中心とした地域住民 |
目的 | 高齢者、子どもが気軽に集まれる場所を開放。充実した活動を行い、満足感を得る。 |
活動 | お弁当作りと配布、農業体験、料理体験、昭和の遊び体験、書道教室、絵画教室等、高齢者の方それぞれが得意とする分野で子ども達に色々な事を伝えていく。 |
次に「シルバー大学」を地元でつくるにはどうしたら良いかを考えてもらいました。内容をみてみるとさわらび大学によく似ていますね。
名称 | ホっ!!とスクールでまなぶDAY!! |
スローガン | 1人は地域のために、地域は1人のために |
講座のテーマ | 「健康」、「子育て」、「介護」、「郷土」、「福祉」の5コースは、15コマで1つのシリーズとなります。その他単体のコースもあり、「遊び」、「おやつ」、「料理」、「裁縫」等、随時開校 |
目的 | ~人と人との繋がりを作り住みやすい地域をつくる~ 地域のどのような人々でも安心して過ごせる地域づくりができるような「学び」の場所を提供する。 |
受講対象 | 小学校区にお住まい又はお勤めの方 |
受講料 | 500円/1コマ(90分)※昼食は、ばばの家特製弁当を購入してもらいます |
開校日 | 水・土・日(週3回) 1限 9:00~10:30 2限 10:45~12:15 3限 13:00~14:30 4限 14:45~16:15 |
年会費 | 1口(個人)1,000円、(企業)5,000円 ※特典としてスクールで作ったグッズや料理などの試食ができます |
事務員 | 授業料、年会費で賄ったお金で、時給850円(社会保険完備)の事務員1名を雇用します。事務員の仕事は、スクール経営、スクールで学んだ方をボランティアとして募集、ボランティアの必要な方を募集、ボランティアの育成、資金・場所の確保、学校・講座の解説、課題の発掘、その道の達人を探す、自治会と繋ぐなど多岐に渡ります。 |
このように地域住民自身で住みよい街をつくることで、まず自分達が元気になります。ボランティアを始めたことで外出するようになり、病気になりにくくもなります。行政からの提供を受けるのもいいのですが、自分たちで作り出したものの方が地域に根ざした良い物ができるのではないでしょうか。
「地域包括ケアシステム」について、地域住民に色々な事を押し付けているという意見もありますが、「自分達で何をしていくべきか」、「自分達で街をつくっていく」と前向きに考えてみてもいいのではないでしょうか。 とは言え、いきなりNPO法人を立ち上げたり、学校を設立することは難しいと思います。そこで、まず自分達に出来ることと言うことで、認知症に対して理解を深めるために「認知症サポーター講座」を受講してみてはいかがでしょうか。
5.認知症サポーター講座
「認知症サポーター」とは、地域に住む認知症の人や家族を自分ができる範囲で見守り、支援する応援者です。この認知症サポーター講座では、認知症についてや認知症の方への接し方等について学び、受講者には修了の証としてオレンジリングが配布されます。さわらび会では全職員が認知症サポーター講座を受講しており、ほとんどの職員がオレンジリングを取得しています。
もちろん、認知症サポーター養成講座を受講したからと言って、実際に認知症の方の介護しなければいけない訳ではありません。道に迷っている高齢者の方がみえたら声をお掛けしたり、スーパーの支払いで困っている方がみえたら案内したりして差し上げるなど、高齢者の方が住みやすい街づくりをすることが認知症サポーターの役目なのです。
尚、さわらび会では「福祉村地域包括支援センター」の職員が認知症サポーター養成講座の出張講座を無料で行っております。ご希望の方はお電話等でご連絡下さい。
6.認知症について
今後認知症の方が増えていきますが心配することはありません。何故なら環境が整えば認知症は「幸せな病気」だからです。これは、福祉村病院副院長・伊苅弘之医師の講義での言葉を引用したものです。前述したように、「幸せな病気」にする為には環境を整える事が必要です。そのための大切な3つのポイントを紹介します。
ポイント1:良い支援者
認知症を支え、認知症を理解してくれる支援者が必要です。家族、友人、近所の人が認知症を理解し、手助けをしてあげられると理想的です。
ポイント2:生活のしやすい空間
物盗られ妄想を軽減するため、整理整頓された落ち着いた空間を作りましょう。また、徘徊をした時すぐ助けられる様、目が届きやすい街づくりをしましょう。
ポイント3:毎日を楽しめる
前述した「ばばの家」のように、認知症の高齢者が楽しめる場所・楽しめる事をつくる。介護保険に於いては、デイ・サービスが毎日楽しめる場所に該当します。また、「寝たきりの高齢者の方はどうしたら楽しんで頂けるのか」という質問がよくあるのですが、音楽を流す、温かい部屋に移る、ふかふかのベッドにする、整理整頓された部屋にするなど、たくさん楽しめることがあるはずです。支援者が「どうやったら楽しんでもらえるか」を一緒に探りながら整えていくことが理想ではないでしょうか。
この3つのポイントは、高齢者に優しい街づくりのヒントにもなるのではないでしょうか。
6.最後に
写真は、講師の高島氏のお爺さんが利用する通所介護で100歳の誕生会をしたときのものです。その誕生会でお爺さんは、「来年も誕生会をしてください」と挨拶したそうです。
歳をとるにつれ、「自分は生きていてどうなのか……」、「みんなのお荷物になっていないか……」と不安になる方も多いですが、このように「楽しみを持って元気に長生きしたい」と思える世の中を作っていくことが大事ではないでしょうか。今後、皆様は介護される側、介護する側、支援者など、色々な立場になると思います。その時に一緒に過ごす時間が大事だと思えるような、高齢者に優しい街づくりを考えて頂けたらと思います。
「地域包括支援センター」が市への窓口となっていますので、住みやすい街にする良いアイデアがありましたら是非ご相談下さい。
質疑応答では、近隣住民の参加者様から、さわらび会の主導で地域の交流の場を作ってほしいというご意見がありました。どのような形になるかわかりませんが、さわらび会として地域の皆様に役立ちたいので、講師の高島氏を中心に関わっていけたらと思います。
(ジュゲム 平松)